絵を描いていてつらくなったときに見るためのページを作っておきます。自分用も兼ねる。
スランプ中の絵師さん、全消し症候群・リセット症候群の絵師さんへ。
- 心身の不調により治療を受けている方は、医療者の指示に従ってください
- 心身の不調により治療を要する方は、すみやかに医療機関を受診してください
- 命をかけてまで描くべき絵はありません。現在命の危険がある方は、すみやかに相談機関・医療機関に連絡を取ってください
- この記事は一般に認知されている現象・体験への対処法を検討したものです。医療的な指示・助言を目的としたものではありません。
絵師のスランプ問題
インターネット上でイラストや絵画を発表・発信する人や集団の俗称。インターネット上のスラングであり、プロ・アマを問わない呼称として認識されている。似ている表現には、絵描き、お絵描き好きなどがある。
絵師・絵描き(呼び方には自意識が反映されますが、どっちでも良い)が活動を続けるうえで経験しやすい出来事の一つが、スランプです。
スランプとは 急にできなくなること
スランプは一般に「今まで出来ていたことが急にできなくなってしまうこと」と認識されている現象です。絵師・絵描きの場合は「今まで描けていた絵が急に描けなくなること」と言いかえられるでしょう。
- 今まで描けていたクオリティの絵が、急に描けなくなった
- 急に描き方が分からなくなった
- これまで描けていたのに、最近は途中で消してしまって完成できない
上記のような現象に困っている場合、それはいわゆるスランプです。

スランプっていうのは、本来できる人がなるものであって
底辺絵師が言うスランプは本当のスランプじゃない
ときおりこんな感じ↑の悪意に遭遇することがあるでしょうが、無視してOK。悪人です。
スランプは世俗的な言葉であり、普遍的な定義はありません。つまり、元々の能力によって「本来のスランプ」や「なんちゃってスランプ」を判断しようとするのは、その人が信じると決めた一説にすぎないのです。
「二流以下のスランプはスランプではない」説の源流は、故・野村克也監督の言葉にあると思われます。参考URL:http://xn--brvo06a8kar68f.com/2178/
野村監督は発展途上の野球選手が自分の能力を伸ばすためには、日々の調子の変化をいちいち気にして「スランプだ!」と動揺するよりも、地道に練習を積み重ねたほうが良い…という見解をこういった言葉で表したようです。
この言葉は、①自己研鑽が業務の一つであるプロ野球選手に対しての言葉である②この言葉に従って自己研鑽した選手は監督からチャンスを得られる可能性が高まる③昭和のじいさんから昭和のオッサンに向けての精神論である
という前提があってはじめて「良い言葉」と認識できます。用法容量を守って正しく使わないといけない言葉なのです。
絵師に当てはめるとしたら、①評価指標(正確さ・写実性など)が明らかなプロ絵師の業務に対して②絵に対価を支払い身分保障する立場からのアドバイスとして③お互いに昭和精神論が心に響くと分かっている間柄において という条件は最低限揃っていないと「いい言葉」とはならないでしょう。


以上から、「本来スランプは~…」言説は
一定の評価指標が無い絵・イラストなどの創作分野に対して、
得点・打率・防御率・年俸など数値によって評価されるプロ野球選手向けの価値観を当てはめている無理筋の精神論である可能性が高いといえます。
将来に責任を持たない第三者からこの類の発言を食らったら、それは明らかにマウントクソバイスですので全く聞き入れる必要はありません。
筆者は故・ノムさんの威を借りて不特定多数に悪意とマウントをまき散らかす行為に反対します
この記事では、”いつものパフォーマンスができない状態=スランプ” とシンプルに考えます。
スランプへの対処① ”原因”より”現状”を探れ
もしもスランプに陥ったら、まずは自分の現状を振り返りましょう。
この時、原因をググるのは得策ではありません。”絵 描けない”とか”絵師 スランプ”とかで検索すると
「絵が描けない原因は○○!?」とか「絵が描けなくなった!スランプの原因は○○!」的なページがひしめきあっています。
しかし、原因と解決は意外と遠いところにある。
原因が分かれば、解決!というのは人間のお悩みへの対処として明解です。しかし同時に、実現性の低い方針でもあるのです。
これは心理学の歴史が証明していますし(詳しく知りたい方は診断主義への批判などをググってみよう)、「正論では人は救えない」といった言説を通して一般的・経験的にもよく知られているのではないでしょうか。
つまり

あ~これ、スランプじゃん ツラ~イ!!
と、思ったら
原因を探して排除するよりも、現状を確かめてベストまたはベターな行動をとってみる方がいい。
早めに状況を良くしたいなら、”なぜそうなったか?”より”今どんな感じか”を確かめましょう。
絵師のスランプ 深刻度チェッカー
絵師がスランプになったときに現状を確かめるツールとして、深刻度チェッカーを作ってみました。
スランプの方は下のチャートを見て、今の自分がどの辺の状態なのかを確かめてみましょう。
より緊急度の高い人から解決策を見つけられるように、深刻度の高い状態から表示されています。
- 深刻度
MAX絵なんか描いてる場合じゃねぇ!- 心や体の調子が悪い。病気かもしれない→すみやかに病院へ
- お金、住む場所、安全な居場所が無くて絵が描けない→すみやかに相談機関(福祉系)へ
- 人間関係に不安や心配事があり絵が描けない→すみやかに相談機関(カウンセリング系)へ
- トラブルに巻き込まれており絵が描けない→すみやかに相談機関(行政・警察系)へ
- やや深刻休養が必要
- 絵を描くのが嫌になった、無意味に思えてきた
- 筆が乗らないが、描き続けないと不安である。つらい。
- 何を描きたいのかが分からなくなった
- 絵が描けない自分は無価値だと感じる
- いいね、RTが伸びなくて怒りや絶望を感じる
- 周りが求める絵を描かなければならないプレッシャーを強く感じる
- 絵を描こうとすると頭が真っ白になり、描けない
- 大作や長編を描き上げた後、コンペ・賞に応募した後である(燃え尽き症候群)
→いったん絵を離れて、休もう!
- スランプと
共存可能うまく付き合っていこう- 最近思ったように絵が描けない
- 絵が完成するまでにいままでよりも時間がかかる
- イメージするような絵が描けない
- 頑張って描いた絵にいいね・RTが付かなくてへこむ、悔しい
- 今まで簡単に描けていたはずの絵が描けない
- やる気はあるが、いいモチーフや構図が思いつかない
→インプット、アウトプット、休息、気分転換のバランスをとる
現在の状態はどうでしたか?
スランプに陥ったときの状態には、表記されている以外にも色々な状況があるでしょう。自分の状況に当てはまる項目が無かった人のために、より一般化すると以下のようになります。
- 心身に不調や異常を感じる場合は、深刻度MAX。絵なんか描いてる場合じゃない。適切な機関へ受診・相談を
- 絵を描くことに不安・焦り・絶望感を感じる場合は、やや深刻。安定した日常生活の維持を優先し、休もう。つらい時は絵と距離を置くことも必要。
- いつもの調子が出ない、急にうまく描けなくなったという場合は、通常のスランプ。お絵描きの趣味を続けながら、スランプ脱出を目指すことが可能。
現状を確認する時に大切なことは、
- 他の人の経験談、体験談を指標にしない
- 原因の大小を現在のつらさの判断基準にしない
です。
経験談・体験談は楽しむための読み物 判断材料には使わない
ネット上に転がっている経験談・体験談は、人目を引き読者を喜ばせるために大げさに書かれていることが多いものです。
絵師のスランプについても同様。
実際は大したことが無かったのにもかかわらず”滅茶苦茶大変だった!”と言う人もいますし、
異常な状態に長年身を置いていたのに、”あれぐらいは大したことない”と言う人もいます。
こういった大げさな武勇伝の中には、面白おかしく楽しめるものも多いです。ですから、気分転換や暇つぶしなど楽しむための読み物として使う分には役に立ちます。
しかし中には、”自分が経験した以上の事態でなければ大変とはいえない”と、周囲を牽制して”つらい”と言えない・言わせない状況を作り出すようなものもあります。こういった不特定多数に向けた謎の悲劇マウントには、影響されても良いことがありません。
自分の現状に当てはまるスランプ体験談を探そうとすると、地雷を引き当てるリスクがぐんぐん高まります。自分の現状は、自分の状態を振り返る・観察することによって判断しましょう。
原因の大小は 今のつらさと関係ない
現状を確認する時には、自分の今の状態・感覚に基づいて判断するのをおすすめします。
原因を現状の把握に影響させると、現在のつらさ、深刻度を見誤るおそれがあるからです。
きっかけは些細なことであっても、心身を病むほどつらくなることはあります。
特に普通のスランプ以上の状況になっている可能性が高い人は、「こんな事を深刻にとらえるべきではない」と自分の感覚を抑え込む必要はありません。
スランプへの対処② ”別に描かなくてもいい”と考えてみる
スランプでこの記事にたどり着いた方のうち、現状を把握して深刻度MAXだった方へ。適切な相談機関を検索して、専門機関で助けを求めてください。
これより先は、スランプに自己対処できそうな状況にある方に向けての内容を書いていきます。
現状を振り返ってみて、「絵を描くのがつらい」とか「絵を描くのが嫌になってきた」という状況にある場合。あるいは、絵を描くのがつらいのに描き続けなくてはならない気がしてなおつらい、といった状況にある場合。
こういった時には、考え方(見方)を変えてみるテクニックが有効です。
リフレーミング

現在自分がとらわれている考え方や見方を変えてみるテクニックを、対人援助領域ではリフレーミングといいます。
リフレーミングは一般にも良く知られている技術の一つであり、気分を変えたい時や困った状況に陥ったときのアイディアとして使われています。
特に固定観念にとらわれて考えが凝り固まった結果、困った状況に陥ったときに効果を発揮します。
つまり、絵師がスランプで絵を描くのがつらい、でもやめられないといった状況の時にはぴったりだといえます。
リフレーミングの正しいやり方 考えを変えて、気づいてなかったものを探す
リフレーミングをやってみる時には、なるべく効果のある方法でやってみることをおすすめします。
リフレーミングは一般に広まる際に、”ネガティブなイメージをポジティブなイメージに言いかえること”といった雑な紹介をされてきました。
しかし、本来は自分がとらわれている固定観念・思い込みに気づくために”ちょっと見方を変えてみようぜ”という思考実験的な技術です。言い換えは自分の中にある偏見を取り除くために行うリフレーミングの一例ですが、それがすべてではありません。
リフレーミングが何でもかんでもポジティブに言いかえることだと雑に紹介されるようになったのは、2010年代の中盤以降だと記憶しています。
リフレーミングは社会運動や介護の分野で使われてきた技術です。マイノリティの属性を持つ人に対して、「自分が気付かないうちにネガティブな偏見を持っているんだ!」と気付き、認識を改善する。職員や家族向けの自己覚知(自分の考え方を知る)の技術として役立てられていました。
その後リフレーミングは、ネガティブな偏見や思い込みを改善する効果があるとして教育・ビジネスの領域でも盛んに利用されるようになっていきました。
利用シーンが広がっていくにしたがって、リフレーミングの技術が持つ自己覚知を促進する一面よりも、ネガティブな考え方を改善するという一面の方が強調されるようになっていきました。この傾向を加速させ、雑ポジティブ路線を決定的にしたのがリフレーミング辞典の出現です。
リフレーミング辞典はリフレーミング技術を子ども達や一般の人に普及するきっかけにするために作られた、リフレーミングの凡例集のようなものです。いきなり「別の考え方をしてみよう」と言われてもどうすれば良いのか分からない人のために、ヒントをくれるものとして教育・研修の現場で活用されています。
本来の目的は良いのですが…このリフレーミング辞典、出現後メディアで取り上げられかなり人気が出ました。「ネガティブな言葉をポジティブに言いかえる」という部分だけに強めにフォーカスが当たり、メディアやネット上においてポジティブ言い換え大喜利が盛んに行われることとなりました。
その結果、リフレーミングは「ポジティブ大喜利に社会的正義っぽい雰囲気をまとわせてくれる概念」として認識され、自分の中の偏見に気付かせる技術であることはあまり知られていないという状態になってしまったのです。
楽しくポジティブ大喜利に興じるのは全く問題ありませんが、それだけをリフレーミングとして紹介・指導するのは学術的に誤りがあります。特に、なんでもポジティブに言い換えようとして無理なこじつけ表現(女性は男性よりも賃金が安い→納税のプレッシャーが軽くていい!ポジティブ!…みたいな誤った言い換え)をすると、リフレーミングで固定観念を植え付けることになり本末転倒です。教育目的で使用する場合は、ご注意を。
絵師がスランプから脱出する時にリフレーミングの技術を役立てるには、本来の形に近い使い方をする必要があります。
つまり、極端なポジティブ運用ではなく、自分がとらわれている固定観念に気付くための思考実験として活用する必要があります。
絵師のスランプに対するリフレーミングは「描かなくてもいい」という切り口で
スランプに陥った絵師さんがリフレーミングする際におすすめの切り口(新たな見方・考え方)は
別に描かなくても良いのでは?
の視点。
絵師のスランプは、良い絵が描きたいのに描けない苦しみが主だと考えられます。描こう描こうとすると描けない現実に遭遇する確率が上がり、より苦しくなる悪循環を生みだします。
やみくもに描き続けるのではなく一旦
別に描かなくても良いのでは?
の前提で考えてみると、自分の考え方の癖や自縄自縛のからくりが見つかりやすいのではないでしょうか。
別に描かなくてもいいのでは? から始まる 絵師の自己覚知
では、例として、別に描かなくても良いのでは?の視点から絵師のスランプをリフレーミングしてみましょう。
自己覚知の例

趣味なんだから、別に描かなくても良いよね。
でも、お絵描きは楽しいから続けたいな。
→絵を描くのが楽しい、好きだと再認識できた

仕事だから、つらくても描き続けなきゃ。
でも、つらすぎるなら別の仕事をすれば良い…
つまり、絵が好きで仕事にしたいから続けてるんだよね
→スランプでも仕事として続けたい意思は変わらないと気づいた

絵師なんてみんな承認欲求の塊
俺がいいねやRTをもらうには、これしかないんだよ!
・・・って、俺は目立ちたいだけだったのか
じゃあYoutubeでも初めてみるか・・・?
→自分の目的をかなえる手段は絵だけではない可能性に気づいた
こんな感じで、思考実験的にリフレーミングを活用してみると自分がお絵描きに対してどう思っているのかを振り返ることができます。

描かなきゃ描かなきゃ描かなきゃ・・・・
と、ドツボにはまる前に一度試してみてください。
また、リフレーミングは一種の思考実験ですから、そこで出た結論に従う義務はありません。リフレーミングで自分に都合の悪い結論に至った場合(絵を描くのをやめよう、とか)は、その結果は無視しても構わないのです。ただ、「仮に考えてみるとこういう見解になるな、ってことは自分はこういう考え方を持ってるのね…」とわかるだけの話です。
もしも極端な結論(死んじゃおうかなとか…)しか出てこないなら、正直絵なんか描いてる場合じゃない。すみやかに治療や相談を受けてください。
スランプへの対処③ あーもうやだやだ!スランプ時の気分転換一覧
現状の把握、自己覚知を経ても、即座にどうすれば良いかがわかるとは限りません。
心身の健康状態に問題が無く、なんか絵の調子が悪いぞ・・・という時は気分転換してスランプが明けるのを待ちましょう。
これ以降は、巷に存在する無数の絵師スランプ用気分転換を列挙してまとめておきます。
やってみようかな~と思うものをお試しください。
- 飲み食い(お茶、お菓子、肉、野菜…など)
- 外出(買い物、レジャー、外食…など)
- 見た目を変える(着替え、おしゃれ、メイク)
- 新しい情報を得る(読書、動画・TV鑑賞、音楽鑑賞、ニュースを見る、資料集め…など)
- 負担な情報を遮断する(SNS、ニュース、トレンド情報…など)
- 別のアウトプット方法を試す(文章、歌、動画、絵以外の創作、ダンス、スポーツ…など)
- 別のアウトプットサービスを試す(新しいイラストサイトに登録…など)
- 絵柄を変えてみる
- 体を動かす(ウォーキング、筋トレ、スポーツ…など)
- 生活リズムを整える(睡眠、食事、運動…など)
- 人との交流を増やす(友達と遊ぶ、話す、イベント参加…など)
- 人との交流を減らす(SNSを休む、一時的に絵師仲間と距離をとる…など)
- 大きな声を出す(カラオケなど)
- 掃除、片づけ
- これまでの自作品を見返す、整理する、宣伝する
- 他の趣味を開拓する
最後に 絵をお休みする絵師が安心できる情報
以上、絵師がスランプになった時のお役立ち情報でした。
記事の最後に、絵をお休みする絵師さんが安心できそうな情報を紹介します。
- フォロワーは思ったより減りません(みんな大量にフォローしてるから、ちょっと休んでも平気)
- 絵はそこまで下手になりません(絵を描くノウハウは結晶性知能なので、中断しても0にはならない)
- AIが0からイラストを描けるようになるまで、あと20年くらいはかかりそうですよ
- 新しい情報や知識をインプットすることで、お休み前より絵が上手くなることがあります
心身を健やかに、楽しいお絵描きライフを!